きっかけは、高校2年の4月半ば。
「俺、もう走れなくなっちゃったんだよね」
幼馴染の突然の告白が、私に大きな衝撃を与えた。
彼は短距離走の主力選手だった。
小さい頃から追いかけっこでは絶対に勝てなかったし、小学生の頃の運動会なんていつもリレーのアンカーを任されていたのを覚えてる。
颯爽を駆け抜けるその姿は、誰よりもイキイキとしていてカッコよかった。ゴールテープを切る、その先の景色。それがたまらなく気持ちいいのだという。
私は勇気をもらっていた。
彼が走る。私も筆を握る。
ずっとそうだった。
中学時代からめきめきと頭角を現していた彼は、県大会3位入賞、高校1年としては異例である輝かしい成績を残してきていた。
ある時、どうしてそんなに頑張れるのかを聞いたことがある。彼は少し考えてからヘラリと笑って答えてくれた。
「ただ、楽しくて仕方がないからかな」
人が喜んでくれるからだとか、それももちろんあるし他にもいろいろ理由があるけど、一番は本人が楽しんでいるかどうかが重要なんじゃないかな、とも言っていた。
