「ごめんごめん。おすすめスポット教えてもらうんだったのに」

「エリはいつもこうペラペラと、」

「サトルうっるさい!ハハ、こんなんでも私の旦那なんだ。つい最近籍入れてね、ばぁちゃん家に挨拶してから、明日は日光参りしようと思って」

「…え」




旦那…。

いかにも言い慣れてなさそうに口を開くエリさんに、私は僅かに息を呑んで見つめ返す。






「って…いうのも、お腹に赤ちゃんがいてね」

「え?!」

「まだ3ヶ月ってとこで、本当に小さい命なんだけど、せっかくだしさ、祈願も兼ねて日光に」

「……す、すごい…」






そう、なんだ。

赤ちゃん…。よくドキュメンタリーで見るようなお腹の膨らみは少しも感じられない。それでもいるんだ。このお腹の中で命が芽吹いているんだ。




ハルナさんと変わらなそうな年代の人たち。それでも、晩婚化してる今にしては早い方だとも思うけれど、……そっか、なんかやっぱりいいな。

とっても幸せそうだ。

仲睦まじくて、お互いのことは何でも理解しているような、そんな強い結びつきが感じられる。







「そ、それじゃあ、なおさら張り切っておすすめを紹介しないと…」

「ありがとっ」





赤ちゃんがどうか無事に産まれますように。




たまたま隣に座ってきただけの人なのだろうが、私は随分と隣人愛的な心を持っているらしい。だって普通だったら他人事じゃん。

それに、エリさんがどんな人なのかってことも、なーんにも知らないのに、無性に応援してあげたくて仕方がなかった。





────エリさんがお腹を撫でている。

それを見て、何故か泣きそうになった。