「確かに、東武線だと快速で浅草まですぐですしね」
だって、驚くほどに早いから、土地が安い栃木から東京に働きに出るサラリーマンも少なくないくらいだし。
「ああ〜…それね…確かに便利だったんですけどねえ」
「……え?」
でも、エリさんは浮かない顔をしている。
「はやく着くし、私もよく使ってたんですけど、4月の下旬くらいに廃止されちゃって…、今は南栗橋までしか行かなくなっちゃったんですよね…」
「……そう、だったんですか?」
「あれ?知らなかったですか?電車使ってたらアナウンスでしょっちゅう流れてますよね?あの快速好きだったのになぁ〜、代わりに急行が新設されたんですよ」
「へ、え…」
「それより南に行きたければ、南栗橋で一回乗り換えなきゃいけないのが…、なんかもう面倒くさくて」
埼玉県久喜市にある南栗橋駅へは、最寄りである新大平下駅から三十分強。
日比谷線、半蔵門線、田園都市線直通列車が当駅以南で運転している南栗橋は、北関東と都心部の重要な橋渡し役をしているのだけれど…。
…知らなかった。
アナウンスなんてろくに聞いてなかったし、それに、なんせ学校がある方向とは逆方面だから…。
「なんて言ったっけ、ダイヤ…なんちゃら…」
「……ダイヤ改正」
「そうそう!サトル賢い!」
「こんなの常識だろ…」
はぁ、と溜息を吐くサトルさんの言葉にもちょっと引っかかった。
常識、か。東武日光線のユーザーだったら知ってて当たり前のことなのだろうか。
一応平日は毎日通学で使っているのだけど、どうやらまだまだ社会を知りきれていないみたいだ。
