ハルナさんと同じ年代なのだろうと伺える若い女の人。
私の隣に座っているその人から、興味深そうな視線が落とされていた。
「それ、日光ですよね?」
「……え?」
さらに人差し指を突き立てて、私の膝の上に広げてある観光マップを示してくる彼女は、えくぼをつくって朗らかに笑う。
「そう…、ですけど」
「わあ!よく行かれるんですか?」
「ああ…、そうですね。小さい頃からよく」
「……だってさ!サトル!明日回るところのおすすめ教えてもらおうよ!」
本当…、こんな機会ってなかなかないと思う。
ボックス席でただ一緒になった人と何かしらのコンタクトを取る。
たったそれだけのことなのに、現代ではそんな小さなコミュニケーションなんてものも廃れきり、皆は周りに一切興味関心を向けなくなった。
個々人で自らバリアを張り、異種との遭遇を拒絶する。社会は便利になった。
あらゆるものがデジタル化して、直接誰かと接点を持とうとしなくても、バーチャルな場所で顔を合わさずにやり取りができる。
なんの妨害もない、なんの手間も気苦労もかからない、自分だけが楽をして過ごせる世界へ。
根本的に大事なことに気づかされる。
こうやって、ボックス席に乗っているだけだけど、世界との距離はまだまだ近かった。
踏み込むこと。踏み込まれること。
それは予測不可能で、時に怖くもあり、時に悲しい気持ちになるかもしれない。
どうなるかなんて分からない。
人に自分を理解されることで、同時に自分の嫌な部分が暴かれるかもしれない。
自分にもリスクがあることかもしれないけれど、私は分かったんだ。
ちゃんと向き合って人を受け入れ、自分を晒したその後……────つまりは、隣に座って来た乗客が降車して行くたびに、私の心ははっきりと色づいていったのだから。
