「……意味、わかんな……」

「いろは」

「……っ、なんで…」




セーブが聞かなかった。ボロボロと涙が零れ落ち、トップスにシミを作っていく。

泣きたくなんてない。悲しいかと言われたらそれも違う。

ただ、懐かしいな…ってくらいだ。現に私はそれ以外に何にも思ってないのに、何故か涙ばかりが溢れ出てきた。







「俺は、君を泣かせてしかないな」

「……っ…」

「だけど、立ち止まってばかりじゃ、いられない」

「……え、…?」

「"生きる"というのはそういうことなんだと思うから。この電車のように前に…前に…────進まないといけないんだ」






瞳の芯を色濃く染めたハルナさんは、一転して誠実な雰囲気を纏い、私の目元を拭ってくれる。

ガタンゴトン…。電車は依然として揺れている。田舎風景は出発地点とあまり変わっていないように見えるが、実はそうじゃない。

電車に乗るということは、常に異なる場所へと移動するということ。





絶えず気づき、絶えず学び、絶えず進化してゆく。それが人生。

…前に、前に────。






『4月21日に実施された東武鉄道の東武スカイツリーライン、日光線、鬼怒川線などで特急「リバティ」の導入を中心としたダイヤ改正により、"日光・鬼怒川方面において快適性・速達性・利便性の高い特急列車を増発する……』






車掌さんによる抑揚のない車内アナウンスを耳にしながら、私はハルナさんと見つめ合う。

この人は……誰なの?








分からない。

私だけがあなたを認識してない。


……ようやく指が離れていった時、ハルナさんと同じくらいの年代のカップルが私たちの座るボックス席に腰を降ろしてきた。