「人助けするような優しいヤツだったのか、アイツ」


「そ、そうなの!だから、みんなの噂は…」


事実とは違ってるものだと訴えようとした時、紅月くんの表情が曇った。




「俺には、大切なものを奪った悪魔にしか見えないけど」




温度が感じられない声。


少し俯いた彼の目は何だか悲しげに揺れているような気がした。


「紅月くん、今の……」


「あ、ごめん。俺、他のクラスの女の子たちから“一緒に昼ご飯食べよう”って誘われてたんだ…。それじゃあ、またね…碧瀬さん」


何事もなかったかのように、爽やかな笑顔を見せる紅月くん。


私に小さく手を振った後、教室の方へと戻って行ってしまった。


さっきの、どういうことだろう…。


紅月くんは、壱夜くんと知り合い…なの?


二人の間に何かあったの?


そんな疑問が頭の中を彷徨う。


モヤモヤした気持ちを抱えながら、私は屋上に向かった。