「顔に泥がついてるよ?」


「あー、さっきの車だな。水飛ばして走っていったから」


思い出しながら壱夜くんは眉をしかめる。


「早く拭いた方がいいよ!ちょっと待ってね、ハンカチあるから…」


慌ててバッグから淡いピンク色のハンカチを取り出して、壱夜くんの左頬に手を伸ばそうとすると、手首を掴まれた。


「別に、必要ない。使ったら汚れるだろ」


「ハンカチは使うために持ってるんだから、汚れるのは当たり前だよ」


「…………」


反応がない…。


っていうか、壱夜くん…目を見開いて固まってる。


そんなに衝撃を受けるようなことは何も言わなかったと思うんだけど…。


「ど、どうしたの…?」


戸惑いながら声を掛けると、壱夜くんはハッとした顔を浮かべてから、掴んでいた私の手を離した。


「……何でもない」


不自然に逸らされた視線。


壱夜くんは、どこか遠くを見つめたまま溜め息をついた。