「ありがと。約束な?」
私の腕を離した壱夜くんは少しホッとしたように笑みを浮かべる。
「んじゃ、無理しない程度に宣伝頑張れよ」
壱夜くんは私の口元についていた髪の毛を掬って耳にかけると、中庭を出て行った。
ライブを見に来たわけじゃなかったの…?
もともと、中庭はチラッと様子を見るだけのつもりだったとか…?
っていうか、さりげなく髪を耳にかけてくれた時、壱夜くんの指先が触れたから、心臓が止まりそうなほどビックリしたんですけど…!
私も中庭から離れて、再び校舎の東側を歩き始める。
でも、頭の中は壱夜くんのことでいっばいだ。
終始、壱夜くんの言葉にドキドキしていたな…私。
今だって、まだ収まらない。
鼓動が波打っている胸元に手をあてた。
今日の壱夜くん、どうしたんだろう?
いつもよりも雰囲気が柔らかいし、言葉や口調が優しかった…。
“ヤバいぐらい可愛い”なんて、初めて言われたし。
おかげで、まだ顔の熱が引かないよ…。
手をパタパタと動かして顔に風を送った。


