朝食を終えた後、部屋に戻った私は身支度を整える。


スクールバッグを肩に掛けて、机の上に置いてあるクリーム色の手提げ紙袋を持った。


中に入っているのは、グレーのスポーツタオル。


熱を出して早退してきたあの日。


壱夜くんが、このタオルを冷たく濡らして私の額にのせてくれたのだ。


ひんやりとした感触が気持ち良くて、“ありがとう”とお礼を言ったら、壱夜くんが優しい笑みを浮かべたところまでは覚えている。


その後は次第に意識が遠のいて眠ってしまったんだけど…


お母さんが帰ってきた時、壱夜くんはまだ家に居たらしい。


どうやら、ずっと私の看病をしてくれていたようだ。


あの日、私の体調が気になっていたお母さんは、仕事を切り上げて夕方には家に帰ってきたみたいだけど、もしも帰りが遅くなっていたら…。


壱夜くんは、夜遅くまで付き添ってくれてたのかもしれない。


本当、優しいな…。


諦めなきゃいけないのに、好きが膨らんで切なくなる。


きっと顔を合わせたら胸が苦しくなるだろうけど、看病してもらったことへのお礼はちゃんと言おう。


私は家中の戸締まりを確認した後、家を出た。