「それでね、私や主人にも“さち”って呼んで欲しいってお願いしてきたから、一時期は渾名で呼んでたの。“さち”って呼ぶ度に満足げな笑顔を浮かべていた莉彩の姿は今でも忘れられないなぁ…」
ヤバい…。
心臓がバクバクしている。
あの頃、莉彩は“サチ”と呼ばれていた。
そして、俺の母さんの実家がある場所の隣町に住んでいた。
ということは、莉彩は……
「それにしても、黒河内くん…どうして渾名のこと知ってたの?莉彩から聞いたって感じじゃなさそうだけど…」
「俺、星想川の花火大会で莉彩さんに助けてもらったんです」
瞬きを繰り返して驚いている莉彩のお母さんに、俺は当時のことを話し始めた。
屋台で母親とはぐれてしまい、ガラの悪い中高生に絡まれたこと。
その男たちを莉彩が追い払ってくれたこと。
そして莉彩と莉彩のお父さんが俺の母親を一緒に捜してくれたこと。
覚えていることを詳しく話すと、莉彩のお母さんは目を細めて笑った。
「そっか…。あれは、そういう意味だったのね」
「えっ…」
意味…?