「10才の時に母親が再婚して以降、なるべく家に居たくなくて、よくここに来てたんだ。家から歩いて20分ぐらいだから」
「そうなんだ……」
「不良グループに入ってた期間は、あまり来てなかったけど、ムシャクシャした時とか一人になりたい時は、たまに来てた。こうやって景色を見てると心が落ち着くんだ」
“落ち着く”っていうの、なんか分かる気がする。
ボンヤリと眺めているだけで心が穏やかになれるから。
「それでさ、報告したいことなんだけど…」
話を切り出した玲音くんに視線を向けた。
「俺、今の父さんとも上手くやっていけそうだよ。あの家が“自分の居場所”だって、ちゃんと思えるようになった」
「えっ」
予想してなかった言葉に瞬きを繰り返す。
“帰る家がない”
“俺の家じゃない”
“本当の父親じゃない”
3ヶ月前のあの日、玲音くんが悲しげな顔で私たちに放った言葉が蘇る。
あの時とは全く違う穏やかな表情に、ただただ驚いてしまう自分がいた。


