「なんで戻ってきてんだよ」
「最後に一つ、壱夜に言っておこうと思ったから」
背後に立った桃舞は俺の背中に静かに手をあてた。
「お前にはお前の恋愛事情がある。だけど、素直な意思に従うのが一番いいと思うぜ?」
「は?」
「無理やり“正しい”と言い聞かせるような選択肢じゃなくて、心が“正しい”と叫んでる選択肢を選べってことだよ」
桃舞は背中をポンポンと軽く叩く。
そのあと“じゃあな”とだけ言い残して帰って行った。
屋上に一人きりになった俺。
「お節介なヤツ」
ポツリと呟きながら、淡いオレンジ色に染まってきた空を見上げた。
だけど、アイツが首を突っ込んできたのは俺を心配してのことだって分かってるから、嫌な気持ちとか全くない。
後悔をして欲しくない…ってことだよな?
中2の時のあの事件で、ずっと後悔してきた俺に、また同じ気持ちをさせたくないって。
どこまでも優しいヤツだな、桃舞は。


