『昨日は……ごめんな、莉彩』
『………………』
『……行って来ます』
『………………』
翌日の朝。
いつもは玄関先まで移動して、“行ってらっしゃい”と笑顔で手を振って見送る私。
でも今日は、そんな気持ちになれなくて、声を掛けてくれたお父さんに言葉を返さず、黙ってリビングのテレビを見ていた。
お父さんがどんな表情をしていたのか分からない。
だけど、リビングを出ていく後ろ姿は、何だか寂しそうな雰囲気を漂わせてる気がした。
『莉彩の大切なスノードームを壊したこと、お父さん…凄く気にしていて、これまで見たことないぐらい落ち込んでたわよ?』
私の様子を見かねて、キッチンにいたお母さんが傍にやって来る。
声のトーンはいつもと変わらず穏やかだけど、表情は少し切なげだった。
『お母さんがテーブル周りで慌ただしく片付けていたから、お父さんが心配してリビングに持って行こうとしたの。悪気はないし、落としたのは決してワザとじゃないから…』
優しく頭を撫でるお母さんに小さく頷いた後、私は学校へと出発した。


