『大事にしてたのに。落とさないように、気を付けて持ち歩いてたのに。なんで、お父さんが壊しちゃうの?』
『ごめん…』
『動かしたりしなければ壊れなかったでしょ!?スノードーム、元に戻してよ』
『莉彩!お父さんだって壊したくて壊したわけじゃな……』
『お父さんのバカ!大っ嫌い!』
焦ったように“莉彩”と呼ぶお父さんの声に振り返ることなく、私は自分の部屋へ。
布団に潜り込むと、声を上げて泣いた。
あのスノードームは、二週間ほど前…。
春休みに、初めて少し遠出の家族旅行をした時、お父さんとお母さんが買ってくれたものだった。
テニスボールぐらいの大きさのガラスの球体の中で舞うのは雪ではなくて桜の花びら。
一本桜の周りに春の可愛らしい野花が咲いていて、そこに花びらが舞う。
とても綺麗で幻想的な光景に人目惚れをした。
食い入るように見ていた私に気付いて、お父さんたちが“旅の思い出に”とプレゼントしてくれたのだ。
すごく嬉しくて、家に居る時は殆ど肌身離さずな状態で傍に置いて眺めてた。
でも、もう二度と見られなくなるなんて…。
溢れる涙は夜遅くまで止まることはなかった。


