「でも、ゆっくり休むためにも神楽くんの家に…」


「碧瀬さん、しつこい。どうせ、俺の家庭事情や仲間に裏切られた話を聞いて可哀想になっただけだろ?そういう腐った同情はいらない」


紅月くんは不愉快そうに顔を歪めた。


「確かに、紅月くんの話に同情はしたと思う」


「ほらな。俺の抱える気持ちなんて知らないくせに、安っぽい言葉をかけれられても、ムカつくんだよ」


胸を突き刺すような鋭く冷たい視線。


押し潰されそうな威圧感を感じながらも、私は目を逸らさずに言葉を続けた。


「だけど、それだけじゃない。紅月くんの苦しい気持ちや辛い気持ち、悲しい気持ち、抱えるものを一緒に共有したいと思った。そして、楽しいとか嬉しいとか、そんな…笑顔になれるような時間を作れたらいいなって思ったの」


「…………」


「紅月くんの新しい居場所になれたら…って」


心が疲れた時、疲れそうになった時、溜め込んだ気持ちを自然に吐き出せるように。


唇を固く閉じている紅月くんに、私は手を差し出した。