「男は、壱夜にもナイフを向けた。切りつけようとしたけど、壱夜は素早くかわして、男の腹に強烈なパンチを食らわせたんだ。その衝撃で男は倒れてうずくまってた。本当に一瞬の出来事だったよ」


す、すごい…。


ナイフに怯まずに相手を倒してしまうなんて…。


壱夜くんの強さに、瞬きを繰り返した。


「その後、壱夜が救急車を呼ぶために電話してくれてる時に、巡回してた警察官が俺らを見つけて駆け寄って来たんだ。結局、俺と赤髪の男は救急車で病院へ、壱夜は補導されて警察署に行った」


「壱夜くんだけが……?」


「うん。あの時の状況から、当初…警察官は、壱夜が俺や赤髪の男をケガさせたと思ったらしい。だから、警察署で細かく事情を聞かれたみたいなんだ」


「そっか…」


「俺も、翌日…警察署で経緯を説明した。赤髪の男は、壱夜が先に手を出した…みたいなことを話したらしいけど、ちょうど当時の様子を目撃してた会社員が居たらしくてさ、その人の証言もあって、結果的には壱夜の行為は正当防衛ってことで処理された」


以前、壱夜くんが…


“不良の男に暴力振るって補導された”


そう言ってたのは、この時の出来事だったんだ…。