「接触しそうになったのを謝ろうとした瞬間、ソイツが大声で怒鳴り始めたんだ。それから胸ぐらを掴まれて突き飛ばされた。鋭い目つきだし、威圧感も半端ないし、正直…かなり怖かった」


今の話を聞いただけでも身震いしてしまう。


当時の神楽くんの恐怖は、相当なものだったに違いない。


「でも男の怒りは収まらなくて、今度はズボンのポケットから小型のナイフを取り出したかと思うと、いきなり左腕を切りつけられた」


右手で、その部分を強く掴む神楽くん。


確か、今までにも…過去の話に触れた時に同じ仕草をしていた。


これが理由だったんだ…。


眉を寄せる姿に、胸が苦しくなった。


「俺、痛みやら恐怖やらで身動きとれなくなっちゃってさ、絶体絶命だ…って思ったんだけど、その時に、壱夜が助けに来てくれたんだ」


「えっ…」


「アイツ、たまたま近くの交差点手前の自販機で、飲み物を買って飲んでたらしいんだけど、男の尋常じゃない怒鳴り声を聞いて、何事かと思って、来た道を引き返してきたって言ってた」


神楽くんは硬い表情を崩さずに、言葉を続ける。