「無力だな、私……」


「何が?」


不機嫌そうな声が聞こえてきて、ハッと我に返る。


隣を歩く壱夜くんが眉をしかめて私を見ている姿が目に映った。


心の中で呟いたつもりが、無意識のうちに口にしていたようだ。


「えっと、何でもないよ…」


「見え透いた嘘つくな。どうせ、俺か紅月の関連でモヤモヤと考えてたんだろ?」


的確に見抜かれてる…。


誤魔化すのは無理だと察した私は、素直に白状することにした。


「この前、壱夜くんの噂を流してるのが紅月くんだったっていう話をしたでしょ?噂を無くすために私が出来ることは、彼と話をすることしかないと思って。でも、行動に移すのが怖くて何も出来ない。だから………ひゃっ!?」


突然、壱夜くんが私の鼻をムギュッとつまむ。


素っ頓狂な声が口から零れた。


「ったく、呆れるぐらいのバカだな…お前。噂なんて、俺にはどうでもいいんだよ。それに…」


鼻をつまんでいた指を離した壱夜くんは、自分の首の後ろに手をあてた。


「碧瀬は、無力なんかじゃねぇだろ」