再び立ち上がった彼女は細く長く息を吐き、心身を落ち着かせる。

「____」

いまも島のどこかに眠るフェリテシアの女神に向け、聖典に記された通り、慈愛を希う御言を詠唱する。詩のようでもあり、歌のようでもある御言を口に出して紡ぐと、途端に空気がクリスティーナの周りを吹き荒れた。

さらに詠唱を続けると、頭上にある光晶石がこれまで以上に光り始める。眩い光に動じる様子もなく、彼女はゆっくりと動き始めた。

美しい韻律にのせながら、右腕を上げる。聖女の右腕は光を表す。光の力は自然界に働きかけて、より多くを生み出すように促し、あるいは自然による災害を緩和する。また、世界中に散る光晶石を輝かせる、目に見える力である。


しゃらりと朝日を反射した簪が揺れ、涼やかな音を立てる。

クリスティーナは左腕の袖で弧を描いた。
聖女の左腕は闇を表す。闇の力は不安を訴える人には安らぎを、弱者には慰めを、病者には励ましをもたらす。光と違い、闇は内面的なものだ。

玉を連ねた首飾りもまた、揺れるたびに触れ合い響きあう。その合間に耳に届くのは、海のさざ波や木々の葉擦れの音。それらの音色をまとうようにして、クリスティーナは太陽を背に舞っていた。