「姫も頑張って練習してんだなぁ」

「あたりまえです」

しみじみと呟くギルバートに短く応じる。あそこまでの技量の身につけるため、クリスティーナが厳しい鍛練を積んできたことをブルーノは知っている。

輝く銀の髪が空を舞い、薄闇を流れて白く滑らかな頬にかかる様は、さながら月の光がしたたるよう。

光をまとっているとしか言いようがない。

昔、まだブルーノが聖騎士見習いだった頃、彼女はすでに聖女だった。初めての人前での奉納舞いにも関わらず、彼女は完璧にやりきったのだ。その姿を初めて見たとき、舞の清冽さに、ブルーノは一目で心を奪われた。

その頃からブルーノの目には彼女しか映っていなかった。

クリスティーナは美しい。だが、その微笑の下にどれだけの苦悩や悲しみがあるのかブルーノには想像もつかない。

母を幼いときに亡くし、父親との関係も決して良好とは言い難く、そして物心ついた時から大人たちに囲まれ、教育係たちに厳しく指導される毎日。

言葉で説明するのは容易い。
だけど、だからこそ、ブルーノには彼女の心がわからなかった。

それでも、自分が彼女の騎士である以上、一番になすべき役割は_。

「私は、あなたを守り抜く。例え、世界があなたに背いても」

固い決意。

強く気高いクリスティーナ。彼女は決して人に弱みを見せない。

だが同時にそれは彼女の弱さでもあり、儚く繊細な部分でもある。

だから自分は、彼女が傷ついているなら、傷を癒さなくてはいけない。
「悲しい」「辛い」と思うなら、そんな苦しさからは必ず守らなければならないのだ。

もし、自分には、彼女を慰めることすらできなくても…「私は一生、あなたのおそばから離れません」

強い意志を含んだ言葉は、舞台から響く音色によってかき消され、隣にいるギルバートにもその声は届かなかった。