ニコッと爽やかな笑みを向けるブルーノだが、その目は少しも笑っていない。
「笑うんだったら、もっと愛想良く笑えよな。まずその生意気な目を直せってぇんだよ」
「精進いたします」
ちっと舌打ちするギルバートは、苛立ちを隠しもしない。
「はっ。お前こそ姫に婚約者ができるって聞いたら黙っておかねーだろ」
「ですから私は聖女様の決めたことに従うだけです。ただ、折角選ばれた婚約者様も、場合によっては他殺体で見つかる可能性も否定できませんが。ライマール公爵はお気の毒でした…」
「お前の頭の中ではもう死んだことになってんのかよ。姫が聞いたら苦い顔して怒られるぞ」
「そう言うあなただって私と同じ考えでしょう?」
「否定はしねぇ」
ブルーノとギルバートはクリスティーナを守ることに忠実だが、その分を差し引いても思考回路が危険すぎる、というのは皆も周知の上だったりする。
「それより、さっさと姫のところにいったらどうだ?お前、一応姫の聖騎士だろ」
「一応ではないですよ。
今、聖女様はお召し替えをしているんです。男の私がついていけるわけないでしょう」
「ったりめぇだ。お前、姫の裸とか見たら容赦なくぶっ殺すぞ」
地を這うような低い声に、誰もが震え上がるほどの鋭い瞳。さすが「戦場の鬼神」と言われるだけある。まあ、この平和なエルカイダで戦争など起こるはずもなく、そのためブルーノは実際に本気で彼が戦っている姿なんて見たこともないのだが。
「その言葉そっくりお返ししますよ」
はあ、これだから血の気の多い老人は嫌いなんだ、とブルーノがひそかにため息をついた時だった。
わっと会場が黄色い歓声に包まれる。
「姫のご登場か」
ブルーノはギルバートの言葉に反応するように顔を上げた。


