「何か言いたいことがあるんだったら言えよな。黙ってるお前はいつもの倍気味が悪い」

ギルバートは、ガシガシと頭をかきながら、うろん気な目線をブルーノに向けた。

「失礼なことを言わないでください。聖女様を止めないのですか?」

「今の俺には無理だ」

「珍しく諦めがいいですね」

「別に。今はすさまじく落ち込んでいるだけだ。明日には戻る」
言葉とは裏腹に随分しっかりとした声だ。

「…落ち込むと長いんですね」

「お前より繊細にできてるんだよ」

「かけ離れすぎて吐き気が…」
わざとらしく口に手を当てる。

「てめぇ、殴るぞ」
拳を準備するギルバートに、ため息を吐く。

「はぁ。私はただ、これ以上聖女様に迷惑をかけないでいただきたいだけです」

「お前もかよ。姫にも言ったと思うが、無理な相談だ。ほら、お前もわかってんだろ。この国の権力図を」

ギルバートは鋭い眼光で会場の隅で酒を煽っている貴族達を見た。

ブルーノは唇を噛みしめる。
正装した聖騎士達がそこら中で談笑し、ダンスを楽しんでる。それは特に問題ない。だが、エルカイダの国王であり「賢愚の王」と呼ばれるクリスティーナの父、ヴェスタとその取り巻きの貴族達は、会場の隅に一つに固まっている。

振る舞いがわかりやすい権力図となっていた。先ほどの国王ヴェスタに対する横暴を誰も咎めなかった理由も、聖騎士達の方へと勢力が傾いているからだ。

「…そうですね」

「お前もいい加減俺たちの方につけよな。お前だったら姫の説得だってできるだろう?」

「聖女様がそれを望んでいるのであれば、私もあなたに協力していたでしょうね。ですが、あいにく聖女様はそれを望まない。その時点で私はあなたの提案には絶対に乗りませんよ」