「だから、わかっているわよ。そんなこと」

そう、そんなこと聖女であるクリスティーナが一番よくわかっている。幼い頃からさんざん言われてきたのだから。

「侍女たちを呼んできなさい。仕度するわ」

「かしこまりました」
去っていく彼の背中を見ながら、クリスティーナはもう一度深いため息をついた。

「私は、聖女なんて望んでいないのに…」
彼女の専属の教育係兼相談役の巫女は事あるごとに言うのだ。

『貴女様は、特別に神から認められた存在。それこそ人一倍、神を敬い、尊び、自分にかせられた光栄な使命を全うしなければなりません』

だが_

「_ばかばかしい」
気がつくと、ぽつり、と口から零れ落ちていた。

光栄な使命?その重すぎる重圧のせいで、何人の聖女が今まで命を絶ったことか。少なくとも、クリスティーナの母はそうだった。

「神様が、一体なにをしてくれるというの。聖女が祈っても命を落としても、何もしないというのに…」

心に冷たい何かが流れ込んでくる。それはじわじわと周りを浸食していく。