「歩舞、元気?」

腕をつかんだ相手は輝空くんだった。

「……え?ぅ、うん」

「ううん?元気じゃないの?」

あの時と同じ笑顔を向けてくる輝空くんが手を離す。

「違うよ‼うんって言ったのっ」

「そう?ヨカッタ」

わたしの頭の思考回路はストライキ状態。

「夏休み、どっか行った?」

やっぱり夏休みに出会ったのは夢じゃなかったんだ……

「おーい、歩舞ー?」

「……あ、うん‼元気だよ~」

ハッ‼と我に返るわたしに、……ククッ、と笑った輝空くん。

「ワンテンポ遅いから。お前って面白いね、キョドってて」

「いつもキョドってるわけじゃないもん‼いきなり後ろから腕捕まれたら誰だってビックリするよ」

「そっか、ゴメンナ」

わざと可愛く言うゴメンナが、なんとなくツボにきた。

「そういえば、お前さっきシカトしただろ」

「さっき?」

「廊下で。声かけてくるかと思ったのに」

「あ、シカトしたわ」

あっさりシカトを認めたわたしに輝空くんはまた笑いだす。

階段にいるのはわたしと輝空くんだけ……何だか不思議だね。
この時間がいつまでも続けばいいな。



……どこからか、マイクを通した生徒指導部の先生の声がした。

──……れより、始業式を始めます……

「「あっ‼」」

顔を見合わせ、わたし達は急いで体育館へ走った。

階段の窓。
動く大きな入道雲。
蝉の声。
時折吹く風は気持ちがいいけど。
残暑はまだまだわたし達を苦しめそうだ。

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