可愛らしい犬のイラストが描かれた便箋に、ポケットの上からそっと手を触れて、もふもふの毛皮に手を伸ばす。

優しいクリーム色をしたその毛皮は、夏の暑さには辛いらしく、先ほどからだらしなく垂れ下がった舌が忙しなく上下している。


「ねえ、宮崎(みやざき)……いつまでそうしてる気?あたし達まだ散歩の途中なんだけど」


宮崎は、頭上から聞こえてくる声を聞き流して、赤い首輪のゴールデンレトリバーを撫で続ける。


「おいこら!無視するな」


首輪に繋がっている同じ色のリードが、地団駄を踏んで抗議する声に合わせて、ぶんぶんと勢いよく振られる。

ようやく、宮崎はわずらわしそうに顔を上げた。


「うるさいぞ、和果子(わかこ)。俺は今、若様にご挨拶中だ」


もふもふの毛皮をお持ちの若様は、宮崎が小学生の頃から和果子の飼い犬をしている、かなり老年のゴールデンレトリバー。