指先にクリームをつけたまま、ゆったりと遠ざかっていく祖母の足音を聞いていた和果子は、不意に宮崎の方に体ごと向き直る。


「……なんだよ、急に」


これ以上クリームが溢れ出してこないように慎重に食べ進めていた宮崎は、こちらを真っ直ぐ向いている和果子に、怪訝そうな視線を送る。


「宮崎、あのさ……」


何か言いたそうに口を開いては、しばらくして言いよどむように口を閉じる。

それを何度か繰り返す姿に、宮崎は完全にシュークリームから視線を外して、和果子の方に顔を向けた。


「だから、なんだよ」


小さく開いた口が、言葉を発しようと形を変える。

その喉から、今にも音がこぼれ落ちようとした瞬間に、不意に口の形が変わった。


「……日向さん、今度の夏は帰ってくるといいね」


一瞬で変わったその口の形に、本来発しようとしていた音はわからないまま。

それでも宮崎は、何の疑問も抱くことなく、その言葉に素直に頷いてみせた。