「和果子ちゃんによろしくね。あと、いつもうちのゆずと遊んでくれてありがとう。無事に生まれたら、この子とも一緒に遊んでくれると嬉しいわ」


そっとお腹を撫でながら、柚花の母が、柚花にそっくりのはにかむような笑みを浮かべる。


「女の子ですか?男の子ですか?」


何気なく問いかけてみれば、柚花の母はふふっと楽しげに笑った。


「わたしはね、女の子だと思っているんだけど、お父さんはね、絶対男の子だって言うのよ。ゆずは、どっちでもいいから元気な弟妹が生まれて欲しいって」


幸せそうに笑う柚花の母に、宮崎もまた笑顔を返す。


「そうですね。元気に生まれてくるといいですね」


そう言葉を添えたとき、いつだったか彼女が言っていた言葉が不意に頭を過ぎった。

終わる命があれば、始まる命もある。

ひっそりと終わりに向かっているこの村にも、生まれてくる新しい命は、確かに存在している。


「じゃあ宮崎くん、気をつけてね」


その温かい声と笑顔に見送られ、宮崎もまた笑顔でぺこりと頭を下げると、自転車の進行方向を変えてペダルを漕ぎ出す。

向かうのは言い当てられた通り和果子の家で、時刻はまもなくお昼を迎えようとしていた。