「これね、シュークリーム。ゆずのおやつにと思って買って置いたんだけど、あの子食べるの忘れて合宿に行っちゃったもんだから。帰るまで取っておいたらダメになっちゃうでしょ?ちょうど宮崎くんが自転車で通り過ぎるのが見えたら、良かったら食べてもらおうと思って追いかけてきたの」


柚花の母が、箱を開けて中身を見せる。

ケーキ屋のロゴが入ったその箱には、大ぶりのシュークリームが三つも入っていた。


「ここのシュークリームね、ゆずが好きなの。いつもお世話になっているから高知くんにもって思ったんだけど、あの子も急に帰っちゃったでしょ?お父さんは夏バテ中で食欲がないって言うし、わたしは一個で十分だから」


「だから遠慮しないでもらって」と、柚花の母は蓋を閉めた箱を、宮崎の凹んだ自転車のカゴにそっと入れる。


「わざわざすいません。ありがとうございます」


ペコリと頭を下げれば、柚花の母はニッコリ笑った。


「三つだと数が合わないけど、そこは喧嘩しないで仲良くわけてね」


宮崎は、なんのことかと首を傾げる。

その反応に、柚花の母もまた不思議そうに首を傾げた。


「あら、和果子ちゃんのところに行くんじゃないの?」


なぜわかったのか、驚きで目を見開く宮崎に、柚花の母は可笑しそうに笑う。