「言っておくけど、我が家は一滴も飲めない家系だからな」
「お酒じゃないっての」
宮崎の前に置かれた瓶からは、ほのかにポン酢のような香りが漂ってくる。
「おばあちゃん直伝の、柑橘類をどっさり使ったドレッシング。レモンとか蜜柑とか柚子とか、まあその他もろもろ。あんまり簡単だったから調子に乗って作りすぎちゃって。だからおすそ分け」
瓶を引き寄せてその口元に鼻を近づけると、確かに爽やかな柑橘類が強く香った。
「凄いな、和果子が作ったのか」
「そう言ってるでしょ。おばあちゃんのレシピだから間違いはないと思うし、良かったら持って帰って」
同じ大きさの瓶を更にもう一本突き出されて、宮崎は視線を上げて和果子を見つめる。
「二本も?」
「作りすぎたって言ったでしょ」
さも当然と言わんばかりの口調に、宮崎は大人しく二本目の瓶も引き寄せる。



