「珍しい……自分から歩き出すなんて」
驚いたような和果子の声に、若様が顔を上げて一声鳴く。
「トイレか?」
「さあ……」
よたよたと歩き出す若様にリードを引かれて、和果子も一歩足を踏み出す。
「せっかくその気になったみたいだから、もう行くわ」
「ああ、熱中症には気をつけてな」
ゆっくりと散歩を再開した一人と一匹に、宮崎は片手を上げて手を振る。
「あっ、そうだ宮崎」
数歩進んだ先で、不意に和果子が足を止めて振り返った。
「後で適当な時間にちょっと家に寄ってよ。渡したい物があるから」
「適当な時間って……」
「忘れないでよ」
クイッとリードを引かれて、和果子が前に向き直った。
そのままゆったりと遠ざかっていく背中を見送って、宮崎は大きく体を伸ばす。



