キッチンを借りて後片付けをしてから自分の部屋でお風呂に入った。
歯磨きも済ませてあまり遅くならないうちに彼の部屋に移動する。

彼はリビングでテレビをつけたまま、パソコンに向かって仕事をしていた。
分厚いフラットファイルが数冊、彼を取り巻くように広げられている。

「あの、お先に寝ます。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

時刻はまだ10時少し前。
寝るには早い時間だったけど、まさか仕事をしている人の隣で暢気に寛ぐわけにはいかない。




今日から私の寝室となった部屋でパジャマに着替え、持ってきた本を寝転んで読む。

けれど、そわそわとして全然頭に入ってこない。
同じページを5回読んだところで諦めて本を閉じた。

「もう、寝ちゃおう」

本当にすることがないので寝るしかなかった。

そういえば鍵をするのを忘れていたな、と内鍵のフックを下ろしてみた。
簡単な作りながらきっちりと付けられていて、襖をガタガタさせても全然開きそうにない。
それでも本気を出せば襖ごと壊すことは可能だろうけど、そんな心配は全く必要なさそうだ。

お互いの安心のために必要だ、と付けられた内鍵。
けれど、外からは鍵がかかっているのかどうか、見ただけではわからない。
この鍵があってもなくても、彼は絶対にこの襖を開けないと思う。

それはカレーを食べてくれた人に対する信頼のお返しと言うには、もう少し踏み込んだ感情だった。