「━━━━━と菊池さんに言われました」
報告を終えて、千隼が作ってくれたしょっぱーーーい野菜炒めを食べる。
前は毎日私が作っていたけど、さすがにそうもいかないので、私の方が遅い日は千隼が作ってくれたりする。
「これ、すごーくご飯がすすむね」
しなしなになったキャベツと玉ねぎが、焼き肉のタレをこれでもかっていうくらい吸っている。
千隼は相変わらずの無表情で野菜炒めを黙々と食べているけど、嫌味過ぎたかな?
「私は作ってくれただけで十分嬉しいから!」
「早くは帰るようにしてるけど、それ以外は自覚ないな」
なんだ。ずっと無言だったのは、自分の行動を省みていただけらしい。
「でも、話すことには慣れたかも」
「慣れたって、何?」
「俺、前はずっと一人だったから、家で声を発することなんてなくて、土日挟むと丸2日声帯使ってなかったんだよ。だから月曜日の午前中なんかはそもそも声が出なかった」
私も一人暮らしだったけど、そんな経験ない。
土日だって友達と出掛けたり、誰かと電話で話すくらいはしてるから。
「でも菜乃といるとよく話すから、慣れたんだと思う」
『帰っておいで』と言われたけれど、千隼だって遅かれ早かれ公舎を退去しなければならなかった。
「俺が菜乃の家に引っ越す」
「は?無理だよ。だって1LDKだよ?」
「何が問題?」
「狭いじゃない」
「俺は狭い方がいい」
「何で?」
「何でも。・・・掃除が楽だから」
私としても敷金礼金や2年分の火災保険を支払ったばかりだから、できれば引っ越したくなかった。
長田さんは奥様が亡くなるまでこの間取りに二人で住んでいたらしいから、無理ではないけど。
「今はとりあえず菜乃の部屋に住んで、先のことはおいおい考える。次に引っ越す時はもっと将来設計考えてからにしたいし」
千隼は大きな家具もほとんどなく、荷物が少なかったから、駐車場をもう1台分契約しただけで、1LDKでもなんとか収まった。
千隼と暮らすのは初めてじゃなかったのに、それでも前とは全然違う。
確かによく話すようになったし、すれ違わなくなったし、距離が近い。



