ここにはいられない




「すみません、菊池さん。この市報に載せる記事と有線放送で流す文章、指定文字数一緒なんですけど、同じものでいいんでしょうか?」

「昨年度は?」

「以前は市報だけで、有線放送は今年かららしいんです」

「そうだなー。変えた方が親切だと思う。目で見るのと耳だけで聞くのでは全然違うから。有線放送の方はシンプルにわかりやすく、若干カジュアルにした方がいいかもね」

「わかりました」

同じ内容でも手抜きはダメなんだなー。
伝わらなかったら意味ないもんね。

「あ、榊君」

違うことを考えていたから、つい反応してしまった。
菊池さんの視線の先には出入口に向かう千隼の姿があった。
一緒に歩く同僚と何やら楽しげに話している。

だけど私に気付いて少しだけ目を細めた。

「あー、笑ってる。珍しーい」

私に話し掛けられて中断したついでに、菊池さんは休憩するつもりらしい。
イスの背もたれにギシッと体重をかけてコーヒーを飲んでいる。

「この前たまたま売店で会ったんだけど、なんかよく話すようになったよね」

「そうですか」

「最近は早く帰るようにしてるんだって。自殺の心配までしてたから、本当によかったよ」

「・・・そうですね」

「あれ?友達だよね?最近会ってないの?」

「・・・はい」

つい嘘をついてしまった。
だって「それは私と付き合ってるからです」なんて言えない。
一度嘘をついた手前、もう訂正も難しくなってしまった。

「会ってない」どころか、今朝会ったばかりです。
そして帰ってからも会います。
まあ、「会う」っていうのとは少し違うから、ある意味嘘ではないかもしれないけど。

彼は、私のうちにいます・・・。