ここにはいられない



「できたよ」

声を掛けると案の定あっさり千隼は書棚から離れた。
もうどんな本があったのかさえ覚えていないと思う。

「いただきます」

「いただきます」

初めて一緒に食事した時のように、向かい合って手を合わせてからスプーンを差し入れる。
カレーよりも炊きたてのごはんの方が熱くて、飲み込むのに少し苦労した。

「・・・やっぱりうまい」

ポツリと聞こえたその声には「本当においしい」という感動と同時に「懐かしい」というあたたかみが含まれていた。
見ると千隼は少し口元を綻ばせている。

「いただきます」と「ごちそうさま」はきっちり言うし、何でもきれいに全部食べてくれたけれど、感想を言われたのは初めてだった。

「『やっぱり』?」

「最初に食べた時から思ってた」

一番最初の夜を思い出す。
けれど私にとって甘やかな印象はない。

「あんまりおいしそうにしてなかったよ」

「ちょっとびっくりして。肉しか入ってないと思ったから」

そういえば、最後の夜、一緒にカレーを作った時にもそんなことを言っていたっけ。

「ずっと食べたかった」

「最初からそう言ってくれればよかったのに」

「『菜乃の作るものは何でも大好きだから、ずっとこうして一緒にいたい』って言えばよかった?」

「そこまで言われたら・・・困ってた」

お世辞を言うような人じゃないからその分恥ずかしくて、食べ終わるまでずっと黙り込んでしまった。