「じゃあ、ようやく千隼がそろったところで」
大ちゃんと里奈が顔を見合わせて少し照れたように笑い合う。
それだけでこれから先が予想できて、顔がピリッと身構えた。
「俺たち、結婚することにしたんだ」
言わなきゃいけない言葉はわかってる。
作らなきゃいけない表情もわかってる。
いつかはこうなるって二人が一緒に暮らし始めた時から、いや付き合い始めた時から、何年も何年も覚悟してきたはずなのに。
もう傷つくことに慣れたはずの心が全部の機能を停止させる。
「おめでとう」
隣からひどく素っ気ない声が聞こえた。
声だけでなく、お皿にこぼれた細かいホッケの身をひとつひとつ割り箸で口に運びながら、という片手間で。
「千隼ー!もっと祝おうって気持ちないの?」
里奈が呆れ顔で抗議するけれど、彼は食べ終えたお皿を脇に寄せ、1本残った焼き鳥に手を伸ばした。
「今更。予想できてたことだし」
大ちゃんも里奈と同じような呆れ顔を浮かべているけど、どこか楽しそうだ。
「千隼が祝ってくれてるのはわかってるし、俺はもう慣れたけど、もう少しパフォーマンスって必要だと思うよ。言葉や表情で想いを伝える努力って大事だって。そんなんじゃ、お前、誰とも一緒に暮らせないぞ?」
「・・・・・・」
話が思わぬ方向に向かったせいで、固まっていた私は動き出すことができた。
「おめでとう!よかったね!幸せになってね」
ちょっと過剰かと思えるほどの笑顔を大ちゃんだけに向けた。
これくらいの意地悪は許してほしい。
「二人ともお幸せに」でも「里奈を幸せにしてあげて」でもなくて、「あなたは幸せになって」。
大ちゃんの幸せを願う気持ちだけは、嘘じゃないから。
それ以外だと嘘になってしまうから。



