101号室のリビングは大きなスタンド型のライトが煌々とついて明るく、また赤々と燃える反射式ストーブのために暑いほどだった。
一応片付いているらしいのだけど、キッチンも含め至るところに本が積んである。
書店の店長だけあって、たくさん読むのだろう。

その中で長田さんと、私と同じくらいの年齢の女性が一人、楽しげに話していた。

「志水さん、こんばんは」

「あ、こんばんは。お世話になります」

「いや、私もお世話になっている立場なので」

実は長田さんは、先日の胃検診の際、私を庇ってくれたおじいちゃんだった。
引っ越しの挨拶で再会してとても驚いたのだけど、それ以来会えばちょっとした世間話くらいはするようになっていた。

「あ、初めまして!和泉茉莉花です。よろしくお願いしまーす!」

南部さん同様、全く緊迫感のない声と笑顔で女性が手を振った。

「初めまして。志水菜乃です。こちらこそよろしくお願いします」

「たまーにお店に来てくれてますよね?私何回かレジ担当したことあります」

彼女のことは見覚えがあった。
いつもニコニコ楽しそうに接客をしているのだけど、話し過ぎる癖があるらしい。
他の店員さんに注意されているところも何度か見ていた。

私のベッドから運んできた布団をリビングの隅に下ろして、千隼がこちらに向かってくる。

「じゃあ、俺帰るから。すみません、菜乃のことよろしくお願いします」

最初は私に、後半部分は他の人に向けて言って頭を下げ、リビングを出て行く。
そんな千隼を慌てて追いかけた。

「あの・・・どうもありがとう」

来てくれたことなのか、抱き締めてくれたことなのか、布団を運んでくれたことなのか、わざと曖昧になるような言い方をした。

リビングから漏れる明かりで千隼の表情もよく見えたけれど、感情の読めない無表情のまま小さく頷いて帰っていった。