長田さんは70代の男性で、奥様を亡くして一人暮らしをされている。
浜中さんは恐らく30歳前後の女性だ。
つまり、男性2人に対して女は私一人。
緊急時とは言ってもさすがに躊躇われる。
例え、千隼の部屋に住み込んだ私でも。
「実は俺、書店の店長をしてるんです。サワハタ書店ってわかります?あそこで」
サワハタ書店はこの市に一つしかない本屋さんだ。
だからたまに行くけれど、南部さんのことは認識していなかった。
「今日の午後地震があって当然みんな帰したんですけど、バイトの子を一人預かることになっちゃって。若い女の子で、まあ俺としては願ったり叶ったりなんですけど、こんな状況の時に手を出したらマズいでしょう?だから志水さんが来てくれたら助かるんですけど、ダメですか?あ、もちろん旦那さんも一緒に!」
私たちの関係は言葉で説明するのさえなかなか難しい。
一目見てわかるはずもないから誤解されて当然だ。
「彼は旦那さんじゃありません」
「そうですか。すみません。でもよろしければお二人でいらっしゃいませんか?」
ホームパーティーにでも誘うような気軽さで南部さんは繰り返す。
千隼の部屋に上がり込んだ時は切羽詰まっていたとは言え抵抗はなかった。
「悪いなー」と思う程度。
だけど今、こんなにきさくに誘われても、他にも人はいると言われても簡単には頷けなかった。
「俺は帰ります。彼女だけお願いしてもいいですか?」
私が迷っている間に千隼が勝手に返事をしていた。
「え?私まだ━━━━━」
「今日は一人でいない方がいい」
南部さんの前だから遠慮した言い回しだけど『一人でいられないくせに』と言われたのだと思う。
「志水さんが来てくだされば助かります。そんなに何日も続かないでしょうし、親睦を深めながら楽しくやりましょう。あ、じゃあお布団は借りてもいいですか?さすがに客用布団まではないので」
千隼が私の意見を無視して押し切ることは珍しいけれど、たまにあった。
そしてそれはいつも私を想ってのことだった。
今も私が南部さんの部屋で過ごすことが、私にとっていいことだと判断したのだろう。
そう思ったら、素直に従おうという気持ちになっていた。



