「そら、当たって砕けるしかないだろうな」

ついに、僕一人では抱えきれず、今度は僕が真鍋をうどん屋に呼び出した。
定食を頼んで待つ間、真鍋はうんうんと話を聞き、あっさりと答えを出す。
単に世話好きなだけでなく、見た目も適度にチャラい真鍋はこう見えても恋愛上級者だ。おそらく、その答えは正解なのだろうとは思う。

「砕けたくはないんだけど」
「いや、いい方が悪かった。気持ちを伝えなけりゃ、何にも始まらないっていうことを言いたかっただけで」
「砕けるくらいなら、何も始まらなくてもいい気がする……」
「じゃあ、ずっと寝不足のままいるんだな」

真鍋はようやくやって来た、かつとじ定食を食べ進めながら、呆れた声を出して僕の濃くなった目の隈を指さす。
確かに、いまいち眠れない夜を過ごすのは嫌だ。けれども、岡園さんに会えなくなることの方がもっとずっと嫌なのだ。

「話を聞いただけだと、意外と脈アリなんじゃないかと思うんだけどな」
「どの辺が?」

現金なもので、間髪入れずに聞き返した。真鍋にそう言われると、ムクムクと期待で胸が膨らんでくる。僕は、少しだけ元気を取り戻して、鯵フライ定食を口に運ぶ。

「わざわざ朝食作りに戻ってくるんだろ?何とも思ってなけりゃ、普通来ないって」
「単純に、罪悪感からの行動ってことは?」
「その線も無くはないけどなー。そもそも、相当気を許してない限り、何度も酔って家に押し掛けるなんて失態は繰り返さないと思うけど」
「そういう対象として見られてないから、気を許してるってことは?」
「だから、そうも考えられるけど……って、さっきからお前、どっちの味方なんだよ!!」

さらに呆れた声を上げた真鍋は、再び箸の止まった僕を無視して、残りの定食を平らげ始めた。

「まあ、好きにしろ。そのうちお前の強固な理性が崩壊する日がくるかもしれねーし、彼女に他に男が出来るかもしれねーし」

早々に食べ終えた真鍋はそう言葉を投げかけると「食わねーならもらうぞ」と僕の鯵フライに手を伸ばしかける。
僕は慌ててその手を阻止した。

「やらないって。今、食べるところだよ」

慌てて口に詰め込んだ鯵フライのように、岡園さんにもあっさりと手を伸ばせたらいいのにと、この期に及んで躊躇していた僕は。
この後、人生で五本の指に入るくらいの大きな後悔することになるのだ。