友達でもないし、ましてや恋人でもない。
僕と岡園さんは、ただのご近所さん、いや、ちょっとした知り合いレベルの極めて薄い関係ながら、その生活はほぼ同居しているに等しい。
朝、僕のベッドで目覚めた岡園さんは、自分のマンションに一度戻るらしい。
“らしい”と言うのは、朝が弱い僕は一度も彼女が帰るところを見たことがないからだ。
ほぼ毎晩、ひどく酔っ払っている岡園さんだけど、どうやら二日酔いはしない体質らしく、早朝にすっきり目覚めるのだという。
家に帰って着替えてシャワーを浴びてから、ばっちり化粧をして、岡園さんは再び僕の家にやってくる。
……罪滅ぼしの朝食を作るために。
「大山くーん、起きてー」
「んー、もう少し…」
「だめだよー、遅刻するよー」
「うっ、まだだいじょ…」
「ダメッ、朝ご飯しっかり食べていーくーのっ」
「ああっ!!」
勢いよくカーテンを開けられ、眩しくて声を上げる。渋々起き上がった僕に、岡園さんはよく出来ましたと微笑んだ。
同居同然の生活を送っていても、やっぱり二人の関係は他人のままで。
朝の岡園さんは、高校生の息子を起こす母親みたいだ。
「さあ、召し上がれ」
「…いただきます」
ワンルームの廊下にあるキッチンとも呼べないような狭いスペースで作られた朝食は、決して豪華とは言えないけれど、それまで朝食を食べる時間を二度寝に費やしていた僕の生活を確実に健康的にした。
食材は、岡園さんがその日の分を自分の冷蔵庫から持ってくるらしい。僕が買った覚えのまるでない野菜達が皿の上に沢山乗っている。
「やっぱり朝はきちんと食べなくちゃね」
「…その台詞、夜きちんと自分の家に帰ってから言って下さい」
「明日は和食にしよう」
「…聞いてますか?岡園さん」
呆れたように会話しながらも、岡園さんと食べられるなら朝から中華で胃もたれしても構わないと真剣に思っている。
遅刻ギリギリで会社に駆け込むなんて新人にあるまじき振る舞いを、正してくれたのは岡園さんの存在だ。
夜はちゃらんぽらんな岡園さんと、朝が弱い僕。
この不思議な半同居生活は、互いの足りないものを埋め合って成り立っている……と、少なくとも僕は思っている。



