「大山くん、独身寮からは引っ越したんじゃたかったっけ?」
仕事からの帰り道、例の先輩に声を掛けられる。
「社員寮の向かい側のマンションに引っ越したので、徒歩通勤なのは変わらないんですよ」
ありのままを答えれば、先輩は当然のように詮索を始める。この人の悪い癖だ。
「どうして、向かいのマンションなんかに引っ越したの?新人なら社員寮追い出されることはないでしょうに」
「それはですね…」
僕が訳を話そうとした時、遠くで手を振る岡園さんが視界に入った。思わず反射的に振り返す。
今日は帰り道にあるスーパーで待ち合わせて一緒に買い物する予定なのだ。
僕が急に手を振り出したので、先輩も自然と僕の視線の先を追ったようだ。
彼女の存在に気が付き、ニヤリと笑った。
「そういうことか」
「…そういうことです」
彼女も、僕が誰かと一緒に歩いてくることに気が付いたらしい。礼儀正しく、ぺこりとお辞儀をする。
「彼女、かわいいな。同い年くらい?それとも年下か?」
就職活動の末、英語塾の受付兼事務員として働くことになった岡園さんは仕事に行くのにもナチュラルメイクで、服装もカジュアルなため、年齢よりだいぶ若く見える。
彼氏の欲目なんかじゃなくて、僕は以前の岡園さんよりも断然今の岡園さんの方が可愛いと思っている。だから、ここぞとばかりに胸を張って答えた。
「ああ見えて、実は六つ年上なんです」
「まじか!全然見えねー」
いつぞやかに、先輩が年上美人OLと噂していたのと同一人物だとは、思ってもみないのだろう。
そもそも、その頃だって岡園さんはすでに会社を辞めていてOLではなかった。きちんと毎朝メイクしてお洒落をしていたのは「大山君に少しでも褒めてもらいたかったから」だと聞いた時には、彼女の可愛さに思わず身悶えた。
僕のカミングアウトに、先輩は何か良い案を閃いたとばかりに、突然目をキラキラさせる。
「六つ上だと28?ちょうどいいじゃん、合コンやろーぜ!!」
もはや何が“ちょうどいい”のかはツッコまないことにして、先輩の自分の欲望に正直なところは、相変わらずだなと感心する。
「それは………
ダメです!!彼女を合コンになんて行かせるわけないでしょ」
きっぱりと断った僕に、先輩は「大山くんも付いてきてもいいから~」なんてすがってきたけど、僕は「彼女が待ってるので」と先輩を振り払って、彼女の元へと急いだ。
「よかったの?」
彼女が心配して尋ねるのに、僕はうんと軽く頷いて返す。
「みことさん、買い物して早く家に帰ろう」
名前を呼ばれただけで頬を染める、彼女の手を引いて、僕はスーパーへと入る。
「顔赤いけど、酔ってるの?」
「酔ってない!!」
「酔っててもいいけど?」
「いいの?」
「いいよ、僕が連れて帰るから」
迷子の迷子の、岡園さん。
────あなたのお家は、僕の家です。
【おしまい】
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!
Twitterのやり取りから生まれた企画『たまには王道挑戦!』参加作品です。その名の通り、ベリカで人気のジャンルを指をくわえて見てるだけじゃなくて、たまには挑戦してみようぜという企画でございます。
個性豊かな作家さんたちの作品が追加されていく予定ですので、キーワード『王道挑戦』からの作品検索をぜひともオススメします♡
私も何だか一つのお話だけでは物足りない気がするので、こっそりお話(続き)を追加するかもしれません。
その時はまたお付き合いいただけると幸いです。
あとがきと言う名の反省文はいつものようにファンメールにて。
以上、木崎でした~。
2017.8.10 木崎湖子



