あなたのお家はどこですか?


翌朝。
目を開けば、見慣れぬ天井。
僕は腕の中で眠る彼女の存在を確認して、思わず一人笑みをこぼした。

いつもの彼女なら、とうに起きて朝食の準備をしている時間だ。
それでも、彼女はすやすやと寝息を立てていて、起きる気配はない。
ようやく僕から解放されて、眠りについたのは明け方近くだったのだから、当たり前だろう。

対して、いつもならまだ眠りこけているはずの僕も、今朝はやけにスッキリと目覚めることができた。
大事なのは、寝る時間ではなくて眠りの質だというのは本当のようだ。
いつになく安心して彼女の隣で眠りについた僕は、このところで一番よく眠れたのだろう。
寝ている岡園さんは、その白いうなじをくっきりと見せて、僕をまた誘惑しかけるけど、僕はその誘惑をはねのけて、彼女の寝顔をじっくりと拝見した。
寝息に合わせて短めのまつげが上下する。
軽く口が開いているのが、安心しきった子どものようだ。
お世辞にもキレイだなんて言えない寝顔だけど、僕には今、世界一可愛く見える。

ニヤニヤが止まらない僕は、その後何十分も彼女の寝顔に見とれていたのだ。


その結果───


「なんで、せっかく早く起きたのに、何にも準備してないのよ」
「だって、岡園さんがかわいかったから」
「答えになってなーい!」

僕の発言に少し照れながらも、テキパキと朝の支度をする。
トースト(時間がなかったので、今日の朝食はトースト一枚だけだ)をかじりながら、僕は疑問に思ったことを口にする。

「でも、岡園さんは仕事行く必要無いんじゃ…」
「私は就職活動中の身です」
「知らなかった、岡園さん就活してたの?」
「そうよ、仕事探さなきゃ食べていけないし、失業保険だって出ないんだから」

しばらくは貯金を切り崩してのんびり引きこもり生活を送っていたものの、そろそろ真面目に就職活動を始めないと色々と困ったことになるいらしい。
ならぱ、僕にも妙案がある。

「岡園さん、一緒に住もうよ」
「なっ、なにを突然……」
「だって、その方が節約になるし。焦って就活しても良い結果にならないし?」
「だ、だからっていきなり…」
「今までも一緒に住んでたようなものだったと思うんだけど、何か違うの?」
「……たしかに。いやっ、でも付き合っていきなり同棲とか急すぎるって!」
「さすがに、社員寮で一緒に済む訳には
いかないから、僕が引っ越してくるか」
「ちょっと、少し冷静になって、大山君」
「僕はいつでも冷静だけど?」

慌てふためく岡園さんをどうにか落ち着かせて、僕が岡園さんの部屋に住み始めたのは、この一ヶ月後のことだ。