あなたのお家はどこですか?


「岡園さん、僕も好きでもない女性を毎晩泊める趣味はありませんし、どうでもいい相手だったら、何ヶ月も手を出さないでいる自信はありません。一応、健全な男子なので」

僕が一気に言い切った言葉で、彼女がどんな顔をしたのかは、分からない。
恐る恐る伸ばした手で彼女をギュッと抱き寄せたから、彼女の顔はまったく見えない。
それでも、抱きしめた腕の中で彼女が困惑していることは十分に分かった。

「えっ、はっ?どういうこと?大山君、もしかして酔ってる?」
「酔ってますよ。だから泊めて下さい」

全然酔ってなんかないけど、ここではそう答えておく。
彼女の理論では、酔っ払いは多少変でも許されるらしいから。

「いや、ちょっと待って」
「待てません、酔ってるので」

横暴な理論(岡園さんの受け売りだ)をここぞとばかりに展開して、ソファーへと彼女を押し倒す。

「一回落ち着こう?」
「慌ててるのは岡園さんのほうでは?」

組み敷いて、ようやく再び彼女の顔か視界に入る。じたばたと顔をまっ赤に染めている彼女は、とても毎日酔っ払って押し掛けてきた人物と同一だとは思えない。
ようやく、ほんとうの岡園さんを手に入れた僕は、彼女のまっ赤な耳に囁いた。

「岡園さん、待たせてごめん」
「待ってない」
「嘘つき。毎日酔っ払いの振りして、僕を誘ってたくせに」
「酔ってたのは、ホントだもん!」
「毎日飲んでたの?僕の家に来るために?」
「元々、毎日晩酌はしてたもの」
「お酒やめられないのは、本当だったんだ」
「そうよ、悪い?」

そんなくだらないやり取りをしながらも、僕はとても幸せな気分だった。

「悪くない。酔っ払いの岡園さんも好きだから」

ストレートに好意を口にした僕に、今度は岡園さんが本物の笑顔でニッコリ笑って囁いた。

「私も、そんな広い心の大山君が好き」

その一言で、僕の鉄壁のように堅固な理性はいとも簡単に崩落したのだ。