だけど、岡園さんの不運はそれだけでは終わらなかった。その上司の奥さんが、たまたま主要取引先の社長令嬢だったことから、問題が大きくなることを恐れた上層部が、密かに岡園さんを呼び出して退職を迫ったのだという。
一度は頑張ろうと思った岡園さんも、話をろくすっぽ聞かずに、しつこく退職を迫る会社に嫌気がさして、辞表をたたきつけた。
その夜、岡園さんは、それこそ浴びるほどお酒を飲んだのだという。
「最初はね、本当に間違えたの。あんなに酔っ払ったの初めてで、本当に自分の家だと思って帰ったの」
酔っ払いながらも、ものすごく申し訳なさそうに岡園さんは話す。
「朝起きてビックリした。だって隣に若い男の子が寝てるんだから」
僕も覚えている。最初の朝だけは、慌てふためいた岡園さんと言葉を交わした。
「しかも、酔っ払って私の方が押し掛けたって言うじゃない」
確か寝ぼけたまま、事情を説明したんだ。
「で、ヤッちゃったかと思えば、そうでもないし。どんだけ草食かと思ったわよ」
岡園さんも真鍋と同じ人種らしく、オブラートに包むという考えはないらしい。
「最初は学生かと思ったけど、新社会人だって言うから、つい親切心が湧いたのよね」
このままでは会社に遅刻しそうな僕を、放っておけなかったらしい。
「おかしいわよね。自分の方が前の晩にどんだけ迷惑かけてるんだって話よ」
ケラケラ笑いながら話す岡園さんは、いつもの陽気な酔っぱらいだった。
本当に不運だったとしか言いようがないし、その元上司とやらにも怒りがこみ上げてくるのだけれど。
それが僕らが出会うきっかけになったのなら、そのクソ上司にむしろ感謝すらしたくなる。



