あなたのお家はどこですか?


「コノヤロー!なにが、不倫だ!!あんなオヤジ、相手にしやせんっ」

もはや僕にはどこの方言だか分からない言葉で、岡園さんは怒りをぶちまけた。

大きく溜息をついた岡園さんを、なんとかなだめてソファーに座らせた後。
事情を尋ねても「ごめんなさい」か「すみません」しか言葉を発さぬ岡園さんを見かねて、僕は冷蔵庫に買い置きされたビールをわりと無理矢理すすめた。

……のが、良かったのか。良くなかったのか。
岡園さんはアルコールを摂取した途端、堰を切ったように事情を語り出した。

話によると、岡園さんは三ヶ月前、突然会社をクビになったらしい。
正確に表現するなら、辞めるように追い込まれたらしい。

それなりの大学を出て、中堅と呼ばれる商社に勤めていた岡園さんだけど、たちの悪い上司(既婚者)に頻繁に飲みに誘われるようになった。
頑なに断っていた岡園さんだが、さすがに断り切れずに一回だけ飲みに行った。

それが、よくなかった。
たまたまその日は、上司の奥さんが探偵に浮気調査を依頼していた日だったのだ。

偶然にも一緒にお酒を飲みに行ったところを写真に撮られ、奥さんに浮気相手だと思い込まれてしまった岡園さん。
本当に飲みに行って駅まで歩いて別れただけだというのに、奥さんが会社に乗り込んできて、皆の前で散々騒いだらしい。
肝心の上司も、妻には頭が上がらないのか、それとも自分がアプローチしていたのに一向に靡かなかった岡園さんを恨んでいたのか、彼女にしつこく誘われて仕方なく飲みに行ったと弁解したのだとか。

お陰で、毎日陰でひそひそとあらぬ事を噂されることになった。それでも、いつか誤解は解けるだろうと今まで通り真面目に仕事をしていたのだという。