新聞が残っているって、そんなに大きな事件だったのだろうか。屋上を後にしてからというもの、俺の頭の中には温との会話がぐるぐるとまわっていた。
 と同時に、恵子のことも。告白、温に聞かれたのか……よく考えると、なんだか恥ずかしい。まとまりのつかない頭を一人抱え、とぼとぼと歩いていると、用事で通学路の近くにいるから、途中まで迎えに行くと母さんからメールが入った。そういえば温、そろそろ雨降るって言ってたっけ。朝の天気予報では一言も、そんなことは言っていなかった。幽霊になったら天気とか、感覚で予測できるようにでもなるのかな。そうだったら一家に一人いたら、かなり便利だ。
 バスに乗り待ち合わせた場所まで行くと、母さんはもう待っており、白い軽車の中から笑顔で「ここよ!」と手を振ってきた。急いで道路を渡り、助手席にすべりこむ。
「ただーいま」
「おかーえり」
 少し節をつけて言うと、それにあわせた返事が返ってきた。
「今日勇君は?」
「なんか塾いれられそうで、その手続きやて」
 慣れた手つきで発車した車は、すぐに若戸大橋の方向へと向かっていった。この時間、橋を通って若松方面へ帰宅する車で道はかなりつっかえている。周囲の車線に比べのろのろとしか進まない車の行列の中に、母さんはなんとか隙間を見つけ(やや強引に)入り込み「軽万歳」とにかっと笑った。いや、軽だから隙間に入れたっていうより、今のは母さんの押しが強かったから(無理やり)入れたのではないだろうか……と思ったが、ぐっとつっこみをこらえる。言ったらきっと、怒られる。
「そーいえば母さん」
「何?」
「何年か前に、うちの高校で自殺した奴がおるっち事件、知っとる?」
「東南で……? いやあ? 知らんけどねえ」
「そっかあ」
 もうちょっと何か聞けたら、と思ったが、丁度橋の降り口にさしかかり、複雑な車の流れに、運転に集中し始めた母さんからは、それ以上の言葉はでてこなかった。