もう、これ以上ここにいても仕方がないと思った。聡介さんにもっと嫌われてしまう前に、とその場を立ち去ろうとすると、私の腕は聡介さんの手に掴まれていた。
「沙耶、座って」
説明させて、と言って私の腕から手を離した。
「中幡のこと、ちゃんと話せてなくてごめんな。話しても不安にさせるだけだと思ったから言わなかったんだ。……って、こんなのただの言い訳みたいだけど。でも、もう学生の頃の話だし、中幡と俺はそういう関係じゃないよ。あの日、ご飯に一緒に行ったのも、俺の考えが甘かったと思う。隠してたつもりはないけど、こんな風に沙耶が不安になることくらい予測できたのにな」
情けないな、と言って下手くそに笑った聡介さん。無理やり作り上げられたであろう笑顔から、時々、悲しげな表情が垣間見えるのが辛い。
「社内では秘密にしようって言ったのは、前にも言った通り会社のみんなの為だと思って提案した。だけど、それも結果的に沙耶につらい思いさせちゃったな」
髪をかき乱して眉尻を下げる彼は、今までにないほど余裕のない表情をしている。
いつも会社で見てきた、意志が強くて、真っ直ぐで、迷いなく進んでいた〝神木部長〟とは少しかけ離れていて人間味があるようにも思えた。だけど、大好きな人が深く思い悩んでいる表情は、見ているだけでも苦しい。
聡介さんをこんな表情にさせたのは、私だ。私が、こんな風に重たいせいだ。
「……ごめんなさい」

