>>依人視点



五月某日、毎年行われる学校行事である球技大会の日。
依人にとってこの日は忘れがたいものとなった。






「試合終了!」


審判を務めるバスケットボール部の男子生徒の声に、依人は我に返った。


(結果はどうなった?)


試合中、無我夢中で周りが見えていないし、よく覚えていない。


ちらりとデジタルの得点板を見ると、最後の記憶では同点だったはずだが、僅か二点だけ自分のクラスの点が上回っていた。


(まさか入ったのか)


決勝戦への切符を得られたのは、依人が闇雲に投げたボールがゴールに入ったことが要因のようだ。


チームメイトのクラスメイトとハイタッチを繰り返して喜びを分かち合いながらコートを出ると、学年問わず十数人の女子生徒が目の前に現れた。


皆タオルやらスポーツドリンクが入ったボトルを手にしている。


「お疲れさまです!」


彼女達は訓練されたかのように寸分の狂いもなく、依人に労いの言葉をかけた。


「どうぞっ」


使ってくれと言わんばかりに彼女達は依人に差し出した。


「わざわざありがとう。でも自分で用意してあるから気持ちだけ受け取るよ」


確か予備のタオルが教室に置いてある鞄に入っていたはずだ。
依人はやんわりと断ると、残念がる彼女達の顔を見ない振りをして教室へ向かうべく体育館を後にした。


体育館を出て、教室棟の一階の廊下を歩いていく。
そこは人気がなく静寂が広がっていた。


日頃依人の周りは常に女子生徒がいて賑やかだ。
その静けさは、依人をほっと安心させてくれた。


三年生のフロアは階段を上がった先の二階にある。
もうすぐ階段に差し掛かろうとした時、依人は壁を伝って歩く一人の女子生徒を見かけた。


体操服の色は統一されており、学年は不明だが、小柄で華奢な体格からして一年生に見える。
彼女をよく見ると、歩き方は不自然で右足を庇っている。


保健室はここからまだ遠くにあり、依人は何故か放っていくことが出来ず階段を通り過ぎて彼女の元へ向かった。


「足を痛めているの?」

「っ!」


いきなり声をかけたせいなのか、彼女は驚いて肩をびくっと揺らして勢いよく振り向いた。


その時、依人は衝撃を受けた。