耳元で囁かれると同時に、依人に力強く抱き締められていることに気付いた。


「やっと縁を抱き締められるんだ。もう離してあげられない。他の男に渡す気なんかないから」

「せんぱい……」


(あたし、先輩の彼女でいいんだ)


目が熱くなり、じわりと涙が溜まっていく。
その涙は、先ほどの不安から来るものではなく、喜びから来るものだった。


「縁、俺と一緒に住んでくれるかな?」

「はい……っ」


縁は涙を浮かべたまま笑顔で頷いた。


「ありがとう」


甘さが孕んだ瞳を向けられて、縁は魂が抜き取られたようにぼーっと夢見心地になっていた。


「ひゃっ」


ふと、左手に冷たい感覚が走り、縁は我に返った。
恐る恐る左手を見ると、薬指にキラリと輝くシンプルなシルバーの指輪がはめられていた。


「これは……」

「俺は二十歳になったばかりでまだ半人前だけど、将来縁と添い遂げたいって思ってる。だから――――」


次に聞こえた言葉に、縁は涙を抑えることが出来なかった。


“俺と結婚してくれませんか”


それは紛れもないプロポーズの言葉だった。


(あたし、果報者過ぎるよ……)


ついに縁は込み上げてくる涙を抑えられなくなり、小さな嗚咽を零し続ける。


「返事は?」

「こんなあたしでよければ……謹んでお受けします……っ」


依人は嬉し泣きをする縁を包み込むように優しく抱き締めた。


「一生かけて溺愛するから、覚悟してて?」


唇が重なり合う。
今までで一番幸せな気持ちになれる口付けだった。


「先輩、好き、大好きです」

「俺も誰よりも縁が好きだよ」


縁は、もっと溺れていたいと懇願するように依人の背中に腕を回した――――









あたしは、お姫様なんて柄じゃない。


だけど、どうかお願いです。


これからもずっと、あたしだけの王子様でいてください。




end.