――――二年後。




縁は高校三年生になった。


二月初旬の朝、縁は母とシャベルを駆使してせっせと雪掻きに勤しんでいた。


北国の冬は、前住んでいた街と比べて寒さが厳しい。
札幌は釧路と比べると気温は多少高い方だが、積雪量が半端なかった。


縁の住むところは市内の都心から離れており、地下鉄の駅はあるものののどかな風景が広がっている。
辺り一面雪で真っ白だ。


「縁、そんなに根を詰めていると倒れちゃう」

「だって、緊張するもん。雪掻きしてなきゃ死ぬ!」


縁の顔に緊張の色が出ているには訳があった。


今日は志望校の合格発表を控えているから。
朝の十時に大学のサイトに合否の結果が公開されるのだ。


札幌に越してからは、縁は勉強漬けの日々を送っていた。


依人のいない日常が寂しくて枕を濡らす夜もあったが、また会いたい一心で予備校に通い受験勉強に力を注いだ。


その結果、先月の末に受けた試験は手応えがあった。しかそ、まだ安心は出来ず今日まで寝不足の毎日だった。


しばらく雪掻きに集中していると、コートのポケットの中にあるスマートフォンから十時を知らせるアラームが鳴り出した。


(き、来た!)


縁はシャベルを雪が片付いている塀に立てておき、一度自宅の中へ入った。


リビングのソファーに座って、スマートフォンで大学のサイトにアクセスする。
トップページのお知らせに“一般試験A合格発表”が表示されていて、縁は震える指先でそれをタップし、合否照会で必要なIDを入力した。


「……」


縁は数分無言で画面を凝視していた。
その間、何度も自分の頬を抓ったりした。


スマートフォンを手に立ち上がると、フラフラと雪掻きをする母の元へ向かう。


「縁……?」


様子の変わった縁に、母はただ見つめるしか出来なかった。


「……った」

「え?」

「受かったよ……!」


縁は母にスマートフォンを手渡すと、こんもり積もった手付かずの雪の山にダイブした。


「やったっ、やったよっ、やったぁぁっ!」


雪の上に寝そべってごろごろしながら、縁は歓喜の悲鳴を何度も上げた。


傍から見たら頭のおかしい人だ、と頭の片隅で思いながらも、今の縁には、落ち着くことは出来なかった。


「よかったねぇっ、おめでとうっ!」


母はスマートフォンをに見つめながらぼろぼろと泣きじゃくると、雪の山の上蹲っている娘をきつく抱き締めた。


母の涙で濡れた画面には、こう表示されていた。


“佐藤縁様 S大学文学部合格”と――――


春の訪れがまだ遠い北国で、一足先に桜が咲いたのだった。