「あたしも大事にしますっ。えへへ、先輩と交換出来て嬉しいです……っ」


縁は目を細めてふわりと微笑む。
依人も釣られるように微笑み返すと、再び縁を抱き締めた。


「先輩っ、いきなりは恥ずかしいです」

「縁が可愛いこというからつい。これ以上可愛くならないでよ」

「〜っ」


腕の中で茹でダコ状態に陥った縁を、依人は甘い笑みを浮かべて見つめた。





それからは、縁は依人の膝に乗せられる形のまま、取り留めのない話を色々した。


時が止まってしまえばいい……そう願っても時は無情にも過ぎていき、下校時間に差し掛かってしまった。


「送るよ」


学校を出ると、依人はいつものように手を繋いで自宅まで送ってくれた。


自宅までの距離が縮まる毎に、縁の心は鉛のように重くなっていく。今日ほど家に着いて欲しくないと思った。


しかし、そんな思いとは裏腹に縁の自宅に辿り着いてしまった。


「ありがとう、ございました……」


往生際の悪い手は弱々しく依人の学ランの裾を掴んでいる。


(もう会えなくなるなんて、嫌よ……)


縁の瞳はじーんと熱くなり、雫が溜まり始めた。


“生きている限り、また会うことだって出来ます”


しかし、依人の答辞の言葉を思い出し、縁の中の暗闇に一筋の光が差した。


(そうだよね。生きている限りまた会えるんだ。メソメソと悲しんでばかりじゃダメだ……変わらなきゃ!)


「あの、先輩……っ」


縁は学ランの裾を掴んだ手を離すと、依人の瞳をそらすことなく真っ直ぐ見つめた。


「ん?」

「あたし、先輩と同じ大学を受けて、高校を卒業したら此処に戻ってきますっ」


泣きそうになりながらも宣言するようにはっきりと言い放った。


(あたしも先輩に会いに行けるように出来ることをやっていくよ……あたしも、卒業します。嘆いてばかりの自分から)


「あたし、また会える日まで、成長した姿を先輩に見せられるように頑張りますっ……だから、先輩も、大学に行っても頑張ってください……っ」


言いたいことを言い切ると、堰を切ったように大粒の涙が溢れ出した。


「分かったよ。俺、遠くから縁を応援しているよ。縁が向こうでも笑っていられるように祈っているよ」


依人は泣きじゃくる縁を優しく抱き留めた。


「ありがとう、です……あたしも、祈ってます。あたしだと微力ですが、あたしはいつだって先輩の味方です」

「その台詞そっくりそのまま返すよ」


そう言って、縁の小さな唇に口付けを落とした。


別れ際、二人は「また必ず会おう」と言う誓いを込めて告げたのは、“さようなら”ではなく。


“またね”の三文字だった。


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